猫の額








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『延長線』 #華陀
華×巴で「ハッピーエンドな終わり方」を目指して書きました。




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「あ、それ僕が持つよ」
 何の予定もない、のんびりした午後。食事も食べ終え、散歩に出かけることにした。テーブルを片付けようと食器に触れると、華陀さんが白いシャツを着た腕を伸ばし持っていってしまう。キッチンは小さいのだけれど、一緒に片付けようと彼の後ろをついていった。
「洗ったやつ拭いてくれる?」
 頷けば、よし、と声を出して彼が腕をまくる。その姿に、思わず目をみはり――くすりと笑いがこぼれた。何? 何でもないです。そんなたわいもないやりとりが、くすぐったい。
「巴ちゃ〜ん?」
 彼が拗ねてしまう前に、まくられた袖口を指す。
「何か、懐かしいなって思って」
 彼が不思議そうに顔を傾けたれど、あの頃みたいに、束ねた髪がさらりと音を立てることはない。服だって、今日みたいに白じゃなくて様々になった。
「腕まくり。久々に見たなあと思って」
「ん、あー……。まあ普段はあんまりしないか」
 彼と過ごしたあの世界での日々は、現実だとわかっていても夢のようにおぼろげな輪郭しか残していない。けれども、こういうちょっとしたことで思い出す。
 彼が水道をひねれば、水が小さな飛沫を上げる。あの頃は、食器を洗うのだって一苦労だった。
「学校では腕まくりしてるんですか?白衣ですよね」
「ああ、まあそうかも。言われてみれば」
 ――やっぱり。スポンジを掴む彼を眺め口元が緩む。
「見てみたいです」
「ええ? くったくたの白衣だし、かっこよくないよ」
「それでも、見たいです」
「……いや、そんなことないですって否定してよ」
 情けない声に笑って、咎められるように名前を呼ばれて。あの日々の繋がりを想って、胸の奥に灯った熱が、ただただ嬉しかった。

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『お決まりの』 #華陀
エンド後の華巴です。『色っぽいお話書きたい』アンケートで書いたので甘めです。




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「あ~、巴ちゃんが可愛すぎてつらい」
「なんですかそれ……」

 彼の部屋に置いているパジャマを着て、淹れてもらったココアを一口飲んだところだった。髪を乾かし終えた華陀さんが、私が持っていたコップをテーブルに戻して、私を抱きしめる。
 出会ったときより短くなった彼の髪が、頬をくすぐる。シャワーを浴びたばかりの火照った身体に更に熱が籠るのを自覚して、気恥ずかしさに華陀さんの肩口に顔を埋めた。何かとすぐ『可愛い』と彼は言うのだけれど、ちっとも慣れない。言われる度に、胸がきゅっと苦しくて痛くなるのに、それが心地良くもある。それでも楽になりたくて、手を伸ばして華陀さんの袖を引き寄せるように掴めば、もっと息が詰まった。どうしたらいいんだろう。一緒にいると幸せなのに、そうであればあるほど大きすぎる感情に潰される。

「巴ちゃんてさ、良い匂いするよね」

 顔を見なくてもわかるほど、幸せそうな彼の声。私の頭をゆっくりと撫でる手が心地良い。と同時に、そんなに嬉しそうに言える余裕にむっとする。

「……華陀さんのシャンプーの匂いですよ」

 私のじゃない。これは、華陀さんの匂いだ。
 そうじゃなくてさあ、とのんびり返す彼に口を尖らせる。『可愛すぎて辛い』なんて、嘘。現に彼はとてもご機嫌ではないか。いつもいつも、私ばかりが苦しい。

「華陀さん」

 現状に痺れを切らして、彼の胸に手を押し当て距離をとる。優しげな瞳を覗き込み、息を吸う。
 余裕なんて欠片もない私の、切り札。

「キスしてください」

 明らかに走った動揺に満足して、目を閉じる。さっきよりも鼓動は早くなってるのに、ちっとも苦しくない。
 昔は拒んだそれを、今の彼は絶対に断らないと知っているから。

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『きっと、いつまでも』 #華陀
#三国恋戦記・今日は何の日 『ネクタイ・メガネの日』
エンド後のお話。




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「ねえ、これなんてどう?」

 華佗さんの顔には見慣れぬ眼鏡。やや大きめの銀のフレームが、店内の照明を受けて光を反射する。映画を観て食事をした定番のデートコースから、いつもは立ち寄らない眼鏡屋にいるのは、何だか不思議な感じだ。

「良いと思いますよ」
「じゃあ、さっきとどっちがいい?」
「え、っと――。どっち、でしょう?」

 さっきのは細いタイプ。どちらもよく彼に似合っているから、咄嗟に選ぶことができなかった。

「……真剣に考えてくれてる?」
「勿論ですよ! ……でも、何で急に伊達眼鏡なんて」
「知的な感じを演出しようかな、と思って」

 至極真面目な顔と、彼らしいと言えばらしい答えに、思わず噴き出した。

「……巴ちゃーん?」
「ご、ごめんなさい。――でも、どれも本当に似合いますよ。かっこいいです」
「そ、そう?」

 途端に照れ臭そうに頬を掻く彼に、今度は愛しさで胸がいっぱいになる。

「――私も、眼鏡買おうかな」
「え、本当? 見たい見たい」

 興味を示した華佗さんに笑いかけて、今彼が掛けている色違いを手にとってみる。

「お揃いにしたいので、二人とも似合うものを考えてください」

 予想通りの彼の反応を、眼鏡を掛ける度に思い出すのだろう。

三国恋戦記 魁 編集

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