猫の額








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「この寂しさはどこから」 #玄徳
#三国恋戦記・今日は何の日 『ネクタイ・メガネの日』
過去に飛んだ時の話です。玄花未満。




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「じゃあ、行ってくる」

 私は献帝のお世話、玄徳さんは路銀を稼ぐため外へ。まるで家族のようなやりとりの中、玄徳さんのスカーフが歪んでいることに気がついた。

「あの。ちょっと屈んでもらえますか?」

 瞬きを一つ。不思議そうにしながらも、私の言葉にすぐに応じてくれることがくすぐったい。緩みそうになる口端に気をつけながら、斜めに曲がっていたスカーフに手を伸ばして結び目も整える。ふと、懐かしい光景が蘇り、ちくりと胸が痛んだ。

「――こう、かな。もう大丈夫です。……玄徳さん?」

 首を傾げて顔を覗き込むと、玄徳さんは慌てて身を起こした。

「あ、いや、すまない――」
「いえ。お父さんのネクタイも――。あ、こういう、細長い布を首に巻くものなんですけど。よくずれてたなって……」

 お母さんの呆れた、でも慈しみに溢れた声音を思い出す。

「お父、さん――」
「はい。お母さんが、よく直してました」
「……そっちか」
「え?」
「いや、なんでもない」

 玄徳さんがスカーフに手を添えながら、目を細めて笑う。

「ありがとうな、花」
「いえ。――いってらっしゃい」

 出かける人の無事と、早く帰ってきて欲しいという願いを込めた言葉。密かに痛みつづける胸を誤魔化すために、精一杯の笑顔で口にした。

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『紅』 #玄徳
同じテーマで全員分書いた掌編です。一人一ページという縛り付きでした。
一部は友人に書いてもらったため、ここにはありません。pixivに掲載しています。
2020/08/07 修正:2022/03/19



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「何か、今日はいつもと違うな」
 廊下ですれ違う際、いつも通りを装って挨拶をして。けれど動きを止めた玄徳さんの言葉に、心臓が大きく鳴った。
「あ、芙蓉姫に紅を借りていて⋯⋯」
 あなたもこのくらいしなさい、と小指でそっとつけられた紅は何だかこそばゆい。それは、宴の日に着飾られたのとは、また違う特別さを含んでいる。
「あぁー⋯⋯、だからいつもと違うのか」
 頭を掻きながら話す玄徳さんの一挙一動に、呼吸がどんどん細くなっていく。
「に、似合いますか?」
 意を決して、言葉を絞り出した。
「ん? ……ああ。そうだな。ーーうん。よく、似合っている」
 ゆっくりと、紡がれた言葉。そこに嘘は一ミリだってないのが伝わって、思わず顔を伏せる。
「⋯⋯そう、ですか。あ、ありがとうございます」
 嬉しさと恥ずかしさが同時に込み上げて、自分がどんな顔になっているのか不安で。一刻も早く立ち去りたくて、「それでは」と返事も訊かずに逃げてしまった。

◇    ◇   ◇

「『何か』ではなく、最初から紅をお褒めになれば良かったのでは?」
「⋯⋯芙蓉」
 後ろから掛けられた声に、驚き振り返る。
「気づいておられることは、真っ正直にお伝えになられた方がよいかと。お節介ながら」
「あ、ああ⋯⋯」
 荒い足音を立て玄徳を追い越す芙蓉の背中を見送りながら、無茶を言うなと、ひとりぼやいた。

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