タグ「孟徳」を含む投稿[3件]
『知らぬは君だけ』 #本初 #孟卓 #公路 #孟徳
魁の本初ルートの面々を集めた『ティータイムは生徒会室で』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=...という本を出しており、その設定を使った小話ですwebオンリーイベントで公開していました。
****************
「クッキーを焼いてみたんです」
柔らかな日差しが差し込み、少しだけ開けた窓から入った風が、ふわりとカーテンを揺らす。
そんな穏やかな、ティータイムに相応しい心地良い午後の空気は、私が軽い気持ちで発した言葉で崩れてしまった。
その場にいた孟徳先輩、孟卓先輩、そして同学年の公路くんが、一斉にこちらを見たからだ。思わず、後ずさる。
「……あ、あの?」
「――それはさあ」
無表情のまま椅子に大きく背を預けた孟徳先輩が、頭の後ろで組んでいた手を解きながら口を開いた。
「調理実習とかで?」
横でファイル整理をしている孟卓先輩が、代わりに続ける。
「い、いえ……」
自宅で、彼らに振る舞うために作ったものだ。……これはもしかして、品質を疑われているのだろうか。
生徒会に入ってから、最初は驚いたお茶の時間にも慣れてきた。お菓子は大抵持ち寄りで、ある日もあればない日もある。昨日は日曜日で、何だか久々にお菓子作りをしたい気持ちになった。ただ、それだけのことだったのだけれど――。
途端に居た堪れない気持ちになりながら、無言のままの公路くんに視線を移す。すると彼は、眉間の皺をいつもより更に深くさせているではないか。
「……すみません、いらなかったで――」
「あーいやいや、違うんだ巴ちゃん」
孟徳先輩が明るい声とともに両手をぱっと広げる。にこりと笑ったその顔に、肩の力がほんの少し抜けた。
「俺たちさ、実はさっきお菓子を食べたばっかりで」
「そうそう。公路はダイエット中だし」
「なっ――!」
「……そうだったの?公路くん」
それは申し訳ないことをした、と彼を見れば、眉を吊り上げ怒っているような表情。
「そんなわ――」
「っていうことでさ」
孟卓先輩は、公路くんの両肩を後ろからぐいっと押しやりながら笑う。
「それ、本初と食べてくれない?」
◇ ◇ ◇
「勝手に! 人をダイエット中にしないでもらえますか!」
半ば無理やり、一緒に部屋を出るなり公路が叫ぶ。しかしそれは部屋の中の彼女には聞こえないよう、声量は抑えたものだ。
『用事を思い出した』と慌てて帰る俺らに、巴ちゃんは困惑の表情を浮かべていたが――。まあ、本初がすぐに駆けつけるのだから、問題ないだろう。横で孟徳がスマホを片手に、「返事はやっ」と笑った。
「だってお前、巴ちゃんを傷つけたいわけ?」
「だからって、僕を理由に使う必要はないですよね⁉︎」
「ないな」
「まあ、ないよな」
孟徳と二人、仕方ないだろう、と笑えば公路は鼻白む。彼だってわかっているのだ。
「あの場に本初がいなくて良かったな」
「まったくだ」
「……あなた達、兄上を何だと」
「へえ。じゃあお前巴ちゃんのクッキー、食べられたわけ?」
「……」
無言は何よりもの肯定だ。
「あー、何か甘い物食いたいな。公路、奢ってやるから付き合えよ」
「私は結構で――」
「あ、駅前に出来たカフェ、蜂蜜製品が売りらしいぞ」
「…………仕方ないですね。付き合ってあげますよ」
「よし、じゃあ決まり」
渋々と、けれど眉根の緩んだ正直な彼の肩から手を離す。
まあ、きっと。これから本初が味わうほどのものには、ありつけないのだろうが。
魁の本初ルートの面々を集めた『ティータイムは生徒会室で』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=...という本を出しており、その設定を使った小話ですwebオンリーイベントで公開していました。
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「クッキーを焼いてみたんです」
柔らかな日差しが差し込み、少しだけ開けた窓から入った風が、ふわりとカーテンを揺らす。
そんな穏やかな、ティータイムに相応しい心地良い午後の空気は、私が軽い気持ちで発した言葉で崩れてしまった。
その場にいた孟徳先輩、孟卓先輩、そして同学年の公路くんが、一斉にこちらを見たからだ。思わず、後ずさる。
「……あ、あの?」
「――それはさあ」
無表情のまま椅子に大きく背を預けた孟徳先輩が、頭の後ろで組んでいた手を解きながら口を開いた。
「調理実習とかで?」
横でファイル整理をしている孟卓先輩が、代わりに続ける。
「い、いえ……」
自宅で、彼らに振る舞うために作ったものだ。……これはもしかして、品質を疑われているのだろうか。
生徒会に入ってから、最初は驚いたお茶の時間にも慣れてきた。お菓子は大抵持ち寄りで、ある日もあればない日もある。昨日は日曜日で、何だか久々にお菓子作りをしたい気持ちになった。ただ、それだけのことだったのだけれど――。
途端に居た堪れない気持ちになりながら、無言のままの公路くんに視線を移す。すると彼は、眉間の皺をいつもより更に深くさせているではないか。
「……すみません、いらなかったで――」
「あーいやいや、違うんだ巴ちゃん」
孟徳先輩が明るい声とともに両手をぱっと広げる。にこりと笑ったその顔に、肩の力がほんの少し抜けた。
「俺たちさ、実はさっきお菓子を食べたばっかりで」
「そうそう。公路はダイエット中だし」
「なっ――!」
「……そうだったの?公路くん」
それは申し訳ないことをした、と彼を見れば、眉を吊り上げ怒っているような表情。
「そんなわ――」
「っていうことでさ」
孟卓先輩は、公路くんの両肩を後ろからぐいっと押しやりながら笑う。
「それ、本初と食べてくれない?」
◇ ◇ ◇
「勝手に! 人をダイエット中にしないでもらえますか!」
半ば無理やり、一緒に部屋を出るなり公路が叫ぶ。しかしそれは部屋の中の彼女には聞こえないよう、声量は抑えたものだ。
『用事を思い出した』と慌てて帰る俺らに、巴ちゃんは困惑の表情を浮かべていたが――。まあ、本初がすぐに駆けつけるのだから、問題ないだろう。横で孟徳がスマホを片手に、「返事はやっ」と笑った。
「だってお前、巴ちゃんを傷つけたいわけ?」
「だからって、僕を理由に使う必要はないですよね⁉︎」
「ないな」
「まあ、ないよな」
孟徳と二人、仕方ないだろう、と笑えば公路は鼻白む。彼だってわかっているのだ。
「あの場に本初がいなくて良かったな」
「まったくだ」
「……あなた達、兄上を何だと」
「へえ。じゃあお前巴ちゃんのクッキー、食べられたわけ?」
「……」
無言は何よりもの肯定だ。
「あー、何か甘い物食いたいな。公路、奢ってやるから付き合えよ」
「私は結構で――」
「あ、駅前に出来たカフェ、蜂蜜製品が売りらしいぞ」
「…………仕方ないですね。付き合ってあげますよ」
「よし、じゃあ決まり」
渋々と、けれど眉根の緩んだ正直な彼の肩から手を離す。
まあ、きっと。これから本初が味わうほどのものには、ありつけないのだろうが。
『紅』 #孟徳
同じテーマで全員分書いた掌編です。一人一ページという縛り付きでした。
一部は友人に書いてもらったため、ここにはありません。pixivに掲載しています。
2020/08/08 修正:2022/03/19
****************
「うん。やっぱり似合うなあ」
隣でにこにこと見つめられて、照れ臭い。先日孟徳さんから贈られた紅を、せっかくだからとつけてみたところに、孟徳さんがやってきた。あまりつけ慣れていないから、自分としては違和感のあるそれも、孟徳さんが嬉しそうだと悪くない気がしてくる。
「あーでも残念だなあ」
「⋯⋯何がですか?」
はあ、と大仰についたため息。
けれども、顎に手をつくその表情は、柔らかくまだ私を見つめたままだ。
「中々つけてくれないからさ。今日もつけてなかったら、俺が紅をつけてあげようかなって思ってたんだよ」
それを聞いて、途端に申し訳なくなる。
贈ったものに手をつけなければ、不安にもなるだろう。気に入ら
ないと、勘違いされたかも。
「すみませ――」
けれど、弁解は途中で止められた。
「こうやって――」
孟徳さんの、小指が。紅を塗った私の唇の上をなぞっていく。
たった、指先一本。
そこから伝わる熱に、頭が溶けたように何も考えられなくて。
「君に、触れる口実になるでしょ」
私の唇と同じ色に染まった、孟徳さん小指の先を。
ただただ見つめることしかできなかった。
同じテーマで全員分書いた掌編です。一人一ページという縛り付きでした。
一部は友人に書いてもらったため、ここにはありません。pixivに掲載しています。
2020/08/08 修正:2022/03/19
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「うん。やっぱり似合うなあ」
隣でにこにこと見つめられて、照れ臭い。先日孟徳さんから贈られた紅を、せっかくだからとつけてみたところに、孟徳さんがやってきた。あまりつけ慣れていないから、自分としては違和感のあるそれも、孟徳さんが嬉しそうだと悪くない気がしてくる。
「あーでも残念だなあ」
「⋯⋯何がですか?」
はあ、と大仰についたため息。
けれども、顎に手をつくその表情は、柔らかくまだ私を見つめたままだ。
「中々つけてくれないからさ。今日もつけてなかったら、俺が紅をつけてあげようかなって思ってたんだよ」
それを聞いて、途端に申し訳なくなる。
贈ったものに手をつけなければ、不安にもなるだろう。気に入ら
ないと、勘違いされたかも。
「すみませ――」
けれど、弁解は途中で止められた。
「こうやって――」
孟徳さんの、小指が。紅を塗った私の唇の上をなぞっていく。
たった、指先一本。
そこから伝わる熱に、頭が溶けたように何も考えられなくて。
「君に、触れる口実になるでしょ」
私の唇と同じ色に染まった、孟徳さん小指の先を。
ただただ見つめることしかできなかった。
#三国恋戦記・今日は何の日
『クリスマス』
エンド後のお話です。ほぼほぼ初めてちゃんとした孟花書きました。
****************
「どうしたんですか、これ……」
ちょっと散歩をしよう。凍えるような寒さの日、陽が落ちきると孟徳さんが言った。今からですか? 聞き返すよりも先に暖かな外套を二枚ほど着せられ、ご機嫌な彼に手を引かれる。回廊に出れば一気に芯まで冷え切りそうで、そっと孟徳さんに身を寄せた。辿り着いたのは、いつもの東屋――ではなかった。
卓に、椅子に、床に。さまざまな形をした灯りが、東屋一面を埋め尽くしている。
「今日、花ちゃんの国だとこういうのが見られるんでしょ」
本物とは似ても似つかないかもしれないけれど。ツンとする鼻を無視して大きく首を振り否定する。
「……とっても、とっても綺麗です」
「なら良かった」
嬉しそうな孟徳さんの笑顔が、灯りを受け殊更柔らかい。
「準備してくれたこともですけど――。覚えてくれてたのが、一番嬉しいです」
「俺、花ちゃんのことなら何だって覚えてるよ」
おどけるような口調に、くすりと笑って繋いだ手に力をこめた。冷たい夜風に時折揺れる灯籠の灯り。元の世界で見たどんなイルミネーションよりも、こっちの方が綺麗で愛しい。
「――寂しい?」
急な言葉に息を呑んだ私に、孟徳さんが笑った。
「ごめん。意地悪だね」
「……そうですよ」
答える前に、決めつけないでほしい。そして、傷つくと思いながらも訊かずにはおれない彼の揺れる心に届く言葉を、あえて紡ぐ。
「寂しいです」
孟徳さんは一瞬驚いたように目をみはって、そして泣きそうに笑う。またひとつ、好きな彼の笑顔が増えた日。