猫の額








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『いついつまでも』 #子龍
#三国恋戦記・今日は何の日 「恋人たちの日」
思いでがえし後のお話です。




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「では、行ってまいります」
「うん。気をつけてね」

 恋人になってからお決まりのやりとりを、今日も繰り返す。まっすぐ私を見つめる瞳にはまだ少し照れるけれど、そのまま見つめ返せば微笑んでくれる――はず、が……。

「あの、花殿」
「なに?」

 いつもと違い、目を逸らしてしまった子龍くんに首を傾げる。

「今日は、その……、一緒に夕餉を共にしてもよろしいですか?」
「え? うん……。勿論だよ」

 朝だけでなく、夕飯を一緒に食べるのはよくあることなのに。何故か緊張している雰囲気の彼に、目を瞬かせる。その間にも子龍くんの白い肌が赤く染まっていく様子に、ふと心配になって手を伸ばした。

「……熱?」
「え! いえ、そのっ」

 手の甲で触れた彼のひやりとした頬に、そっと胸を撫で下ろす。風邪ではないようだと安堵したところで、子龍くんの驚きで見開かれた瞳に気付いて――びしりとそのまま固まってしまった。

「あ、ご、ごめんね急に……」

 ――これは、多分あれだ。夕餉だけのお誘いではない。
 居た堪れない気持ちになりながら、そそくさと手と目線を下げる。いえ、ともごもごと言葉にならない子龍くんの返事。勘違いなどではないのだろうと、一気に顔に熱が昇った。結婚の約束までしているというのに、こういう雰囲気には未だ慣れない。

「で、ではっ。行ってまいりますね」
「う、うん。気をつけてね」

 二人で同じやりとりをぎこちなく繰り返しながら、せめて見送りだけはと顔を上げる。そこには、真っ赤になっている子龍くんの顔。きっと私も同じように赤くなっているのだろうと思うと、自然と笑いが溢れてしまった。余分な力がすっと抜けていく。

「いってらっしゃい」
「――はい」

 彼も同じなのだろうか。頬を染めたまま、いつものように笑い返してくれた彼に、今日も胸がいっぱいになる。


 
 子龍くんが恋人になってから繰り返される幸福が、いつか形を変えてもずっと続きますように。

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『七夕』 #子龍
七夕テーマでアンケートを取って書いたときのものです。初書き子龍くんでした。



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「それで、花殿はどんな願いごとを?」
 七夕のことを思い出して話してみれば、意外な質問がきて首を傾げた。
「今までのってこと?」
「はい」
「えっと⋯⋯。家族みんな元気で過ごせますように、とかだったかな?」
 最後に書いたのはいつだっただろうか。毎年必ず七夕のことは思い出しても、短冊に願いを書いた記憶は遥か昔だ。
「――そうですか」
 子龍くんの硬い声に振り向けば、彼は悲しそうに目を伏せていた。
「子龍くん?」
「――竹、ですね。少しお待ち頂けますか」
「え?」
「へ?何、え、ちょっと待って!」
 今すぐにでも飛び出していきそうな彼の夜着をはっしと掴む。
「どこに行くの?」
「願い事は笹の葉に吊るすのですよね? 竹を取ってきます」
「え、何で――」
「ご家族の息災を祈らなければ」
 あ、と思わず声が漏れた。
「でも」
「……大丈夫だよ」
 彼の手をとって、ゆっくりと首を振る。
「子龍くんの、その気持ちだけで」
 私は今、こんなに優しい人と暮らしている。
「短冊に書かなくたって、絶対に届くよ」

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