猫の額








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『夢のあと』
#エース スペード黒 ベストED後

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 幸せな夢を見ていた。

 目を開けて、まずそう思うような夢だったのだろう。
 でも、どんな内容だったのかは欠片も思い出せない。もどかしさと、わずかに残る幸福感で、とろりと再び落ちそうになる瞼を押し上げる。
 視界いっぱいに広がるのは、白い雲が浮かぶ青空。ざわりと木々が揺れる音に続いて、風に流された髪が頬をくすぐった。

「あ、起こしちゃった?」

 声のする方に目線を向ける。

「……エース」
「君の髪、柔らかくて気持ちいいからさ。引っ張っちゃったかな」

 どうやら私の髪で遊んでいたらしい。ゆるゆると首を振れば、そっか、と穏やかな声が返ってきた。

「――寝ちゃってたのね、私」
「俺もだよ。君より少し前に起きた」

 何かがあってもなくても、気が向いたら青い花畑に来るようになっていた。それこそ、彼が寂しくなくても、だ。
 今日は、私はサンドイッチ、エースはいつものキャンプセットのコーヒーやカップを持って、ピクニックに来ていた。緩やかに流れた風が、畳まれたランチョンマットを揺らす。

「食べてすぐ寝ると、太るわよね……」
「あっはは。君はもう少し肉付きが良くなっても大丈夫じゃないか?」
「……あなた、デリカシーというものがないわけ?」
「え、何? 俺、別に胸の話はしてないけど」
「私だってしてないわよ!?」

 身を起こしながら抗議するが、彼は朗らかに笑い続ける。

「いやだって、ちょうどいい大きさだと思うぜ。俺は好きだな」
「……ねえ、これ以上この話を続けるなら、私にも考えがあるけど」
「ごめんごめん」

 ちっともそう思ってなさそうな顔で、声で、笑うエースの顔は。とても柔らかだ。

 ――怒る気も失せるじゃない。

 立てた膝に頬をつくことで、緩みそうになる顔をごまかした。

「俺さ。夢を見てたんだ」
「へえ」

 急に変わった話題に、自分も夢を見ていたことを思い出す。幸せだったということしか、思い出せないが。
 そして前にもここで、二人して夢を見たのだ。あのときは、ペーターの贈り物。過去の焼き増しではない、私たちが願ってやまないもの。
 満たされると同時に、胸の奥が痛くなる夢だ。だって、『いつか』『ずっと』を願ってしまうから。

「どんな夢?」

 口角を上げ、できるだけ無邪気に見えるよう問いかけた。

「君がいたよ。君と、ピクニックしてた」
「あら、今と同じじゃない」

 ユリウスの名前が出なかったことに、思わずほっとしながら笑う。けれど、エースは笑わなかった。ざあっと草が風でしなり鳴る。珍しく強い風。

「うん。……同じだな」

 静かな、感情を抑えたような声に、首を傾げる。

「……楽しく、なかったの?」
「楽しかったよ。今日みたいにさ」

 ごろりとエースが寝転がった。

「……楽しかったから、さ」

 ――怖くなった?

 浮かんだ言葉を、静かに飲み込む。私だったら、そう思うから。いつまで幸せは続くのか。いつか、きっと――。先を思えば思うほど、不安からはどうしても逃れられない。
 でも、二人して落ちることを、望んではいない。だから――。
 寝転ぶエースの横に手を突き、身を傾けた。

「アリス?」

 頭を垂れれば、髪がさらりと流れる。ためらったのは、一瞬。目を閉じながら、唇を落とした。

「…………」
「……え、っと」

 頬が熱い。する前よりも、後の方が恥ずかしい。驚いたように見開いたエースの目を見ていられなくて、咳払いをしながら逸らす。

「その……、」
「近くにいる」
「え」

 突き立てままの腕に、エースの手が優しく添えられた。

「だよな」
「……ええ」

 どうやら伝わったらしい。
 そのくすぐったさに、今度は隠さず頬を緩める。ゆっくり腕の力を抜いて、彼に身を寄せ体重を預けた。
 約束はできない、私達だから。

「好きよ、エース」

 今、ここだけに目を向けて。
 そこには欠片も、本当の願いを込めてはいけない。





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あとがき

スペード黒のベストエンド、ユリウスありきで大好きで、でもそうじゃない二人も書いてみたくて書きました。
リプレイしながらもうずっと泣いてましたね……。すべてはダイヤのせいです。
スペード黒、きっと、一番素直にエースに対して「好き」を言えるアリスですね。そんなエースルートがプレイできて良かった。

ハートの国のアリスシリーズ 編集

#エース
ハートの国のアリスオールキャラ本 『Forget me』WEB再録



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「俺、コーヒーを淹れながら笑う子って初めて見たな」

 背後からいきなり声を掛けられて、危うく手がお湯にかかりそうになってしまった。
 後ろから覗き込む彼に聞かせるために、わざと大きく溜息をつく。

「……ノックぐらいしたらどうなの?」
「いやー、盛大に迷っちゃってさ。やっと目的地に辿り着けて、嬉しくてノックも忘れちゃったんだ。ごめんな?」

 ――じゃあ気配を消して入って来るな。

 しかし、どうせ言っても意味がないと、再び溜息をついた。
 振り返れば、予想通り愛想の良さそうな笑顔を浮かべたエースがいた。けれど、その目の奥は笑っていない。いつものことだけれど、この威圧する類の表情は、未だに落ち着かない。
 せっかく良い感じにコーヒーが淹れられそうだったのに。最近は立ち上る香りと、蒸される状態で何となく出来が想像できるようになっていた。

「あっそう。お疲れ様」
「うん、ただいま」
「……」

 ていうか、近い。
 小さなキッチンだ。コーヒーを淹れる手元を覗きこんでいるせいもあるのだが、この男の距離感はおかしい。半歩身体を離しつつ、コーヒー豆が蒸されていく様子を眺める。

「生憎、ユリウスは今いないわよ。出かけてるの」
「知ってるよ」
「は?」

 だって、ユリウスに会いに来たんでしょ? そう思ったものの、一つしかない部屋に彼はいないのだ。訪れた時点でいないことがわかっても不思議ではないかもしれない。でも、さっきの言葉は、それとは違う気がした。
 エースは、もう興味が他に移ったのか、片付いた作業台を眺めている。彼の分も淹れてあげるべきなのかしら。ここにあるのは私一人分だ。
 あまり淹れたくはないが、そのまま放置というのも居心地が悪い。

「あなたも、コーヒー飲む?」
「いや、いいよ。ありがとう」

 その返事に少しほっとしながらも、別に安心するほどのことでもないと引っかかる。面倒くさいわけでもない。お湯だって沸いているし、彼が欲しがれば簡単に淹れられるほど手慣れたのに。湯を注ぎ終え、コンロにヤカンを置いたところで視線を感じた。

「……何?」

 エースが私を見て微笑んでいる。

「いや、難しそうな顔してるなーと思って」
「別に……」
「そういう顔、ユリウスに似てるよ」
「!」

 かっと顔に血が上ったのが自分でもわかった。

「似てないわよ!」
「そうかな。瓜二つだけど」

 今度鏡で見てみたら? と馬鹿にされてるとしか思えないことを言われる。

「ユリウスと仲良くしてるみたいで良かった。安心したぜ」
「…………」

 してない、と否定するのもおかしいが、エースが言うことをそのまま認めるのも腹立たしい。

「ユリウスのこと、好きなんだろ?」

 何と言い返してやろうかと考えていると、エースがとんでもないことを言った。

「っえ、」
「俺もユリウスのこと好きだからさ。同居しているのが君みたいないい子で良かったよ」

 ――そういう、好きか。ただの、好意。

「……ええ、好きよ。口は悪いけど良い人よね。ユリウスって」
「そうそう。誤解されやすいんだけどな」

 ユリウスという共通の話題に、いつの間にか強張っていた身体から、少し力が抜ける。

「こう、眉間に皺寄せて仕事している姿を見てるとさあ。思わず助けたくなっちゃうんだよな」
「確かに」

 眼鏡をかけて、時計の修理をする彼の姿を思い浮かべれば、頬が緩んだ。

「何か手伝おうか? って訊いても『そこで座ってろ』って断るんだけどさ。何回かやってると、根負けして手伝わせてくれるんだよな」
「ふふ、そうね」

 ユリウスの声真似に加えて、目尻を引っ張り顔つきを険しくさせるエースに笑う。ふとした瞬間、この人は『友人らしさ』を垣間見せる。違和感なく、純粋に、ユリウスの友達なのだと思わせる。

「なんだかんだ、押しに弱いんだよな、あいつ」
「本当に」
「コーヒーだって、いつの間にか君に淹れ方を教えてるし」
「そうね」

 エースが腕を組み、キッチンにもたれかかる。

「そして君は、ユリウス以外にはコーヒーを淹れてやりたくないぐらい、好きなんだよな~」
「そうそ……」

 …………。

「って、待って! 今のは違うの! 違うっていうか、その――」
「ユリウスも、君のことが好きだって言ってたぜ」

 一瞬、エースが何を言ったのかわからなかった。――好き? 好きって、言った?
 回らない頭。ただ視界に入っているだけのエースの顔が、再び微笑んだことだけ理解する。

「困る?」
「………………」

 困るに決まっている。恋愛ごとなんて。居候の身だし。
 なのに、答えることができない。

「――困る、ってことでいいのかな」

 ただ押し黙ることしかできない私に、エースはにっこりと笑う。

「嘘、だよ。君のことが好きだ、なんて言ってない。良かったな」

 嘘。
 嘘、か。
 どこかほっとしながら、『困る』と答えなくて良かったと、そんなことを頭の隅で思う。

「これからも、ユリウスに好かれないといいな」

 反射的に漏れた「そうね」は、自分でも虚しくなるほど弱々しかった。嘘。嘘なんだ。だから安心すればいい。なのに――。
 コーヒーを淹れ終わっていたマグカップを手に取り、口に含む。
 何も味がしなかった。






10 嘘を知らせないで 夢心地でいたかった

ハートの国のアリスシリーズ 編集

#エース
ハートの国のアリスオールキャラ本 『Forget me』WEB再録



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「俺、君といると安心するんだ」

 愛おしげにそんなことを言われたら、普通は嬉しかったりときめいたりするものかもしれない。
 私だって例外ではなく、冷めたところはあるものの、多少は心動かされるはずだ。
 なのに、まったく動揺しないどころか、気持ちが盛り下がっていくのは何故だろう。


 エースだからだ。


 それ以上でも以下でもない。他に理由なんてない。

「……ありがとう」
「……顔と言葉が一致していないみたいだけど?」

 そういう彼は、困ったような、不思議そうな表情。これだけを見ていたら、とても良い人を困らせているみたい。だが、彼は良い人とは程遠い。かといって、悪い人かといえば疑問の残るところでもある。――だって、『悪い』とかいう範疇に収まらない人だから。

「理由を想像すると、こういう顔になるの」
「理由って……。君を好きな? つまり――うじうじしてて、自分が嫌いで、常に自己嫌悪の嵐で、後ろ向きで、その他色々な理由が?」

 嫌われているとしか思えない。というか、聞くたびに増えている気がするのは気のせいだろうか。色々って何よ(聞きたくないが)。

「……それを、本人に堂々と言うからよ」

 溜息をつきながら、頭をエースの肩にもたれかけさせる。自分の趣味とはかけ離れた、ハートの城オプションの派手なソファーは、座り心地は良い。外に出ない日は、とりとめもない話をしながら、彼とソファーでだらだら過ごすのが日課になってきていた。エースはというと、私の右手をとって、指を曲げてみたり、握ってみたりと遊んでいる。こうして気軽に触られることにも慣れてしまった。

「だって俺、君には誠実でいたいからさ」
「……せいじつ」

 ってどういう意味だっけ。別に彼が嘘つきだとか、そんなことは思わない。だが、誠実という言葉がこれほど似合わない人間もいるだろうか。

「逆に聞きたいんだけどさ」

 私の手をグーパーさせながら、エースが話しだす。

「俺が言ってることって、『そのままの君が好きだ』ってことなんだぜ? それって嬉しくないのか?」

 それは、あんたの言い方が悪いからよ。
 でもその答えは最適解ではないと、言葉を選ぶ。油断してぶつけた言葉で、理不尽なカウンターを喰らいたくはない。

「――私、自分が嫌いだから、それを好きだって言う人が信用できないのかも」
「でも、俺はそういうところが好きだからな……。困ったな。いつまでも信用してもらえない」

 ちっとも困ってない様子で、片手は私の手を握ったまま、もう片方の手は私の髪をそっとすくう。

「どうしたら、信じてくれる? もっと態度に表した方がいいのかな?」

 以前にも聞いた言葉。突如変わったささやき声に、反射的に身を固くする。もう彼の目は私の手ではなく、瞳を捉えていた。逃さないとでもいうように見据えられて、背中をソファに押しつけることで、少しでも距離を取る。……無駄だとはわかっているけれど。

「結構よ」
「遠慮しなくていいんだぜ?」
「全っ然、してないから。私、あなたのこと全面的に信用しているから。これ以上態度に出さなくても十っ分にわかってるから」

 さっきよりも近いエースの上半身を、さりげなく手で押し返しながら、横にずれる。

「アリス」

 髪に触れていた手が、すっと頬に落ちる。そこはどこよりも、エースの熱が直に伝わってくる気がする。でも、それは錯覚だ。だって彼は、手袋をはめているのだから。
 だから、今熱くなった頬は、私の内から起こった熱だ。

「好きだよ」

 明らかに『意図』を含んだ言葉。何度も言われたことのある言葉なのに、鼓動が早まり顔が更に火照る。目を合わせられないほど恥ずかしいと思うのに、逸らすことができない。
 乾いた手袋が私の頬を撫でる。その感触を頭の隅で感じながら、静かに唇に落ちた熱で、やっと瞳を閉じることができた。
 でもそれは一瞬で、すぐに離れた温もりに寂しさを覚えてしまう。彼との行為は、その繰り返しだ。より深くなることがわかっていても、離れた瞬間はそれで終わりなような気がするし、実際に終わるのだ。ずっとこうして、触れたまま生きていくことなどできないのだから。

 ――そっか。

 私といると、安心すると彼は言った。それに心が動かなかった理由が、今わかった。
 赤いコートの背へと手を伸ばし、まるでしがみつくように衣服を掴む。エースが小さく笑ったのが、気配でわかった。
 一緒にいても、安心なんてできない。ほんの少し離れただけで寂しいのだから。






03 優しい温もりは貴方とともに消える

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『帰る道』 #エース
「エースで甘め」のエアリクで書きました。ハート城ルートで、でユリウスに二人で会いにいった後の話です。




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「なあ、手を繋いでもいいかな?」
「…………は?」
 時計塔に行くという彼に、道案内がてらついていって、ユリウスへ手土産を買って、今回も散々お邪魔をした、その帰りだった。時間帯は昼から夕方に変わり、鐘の音が時折どこからか届いてくる。雑踏を歩く人々も、帰路に着こうとしているのか、どこか忙しない。
「だから。手を繋いでいいかな」
「……い、いいけど」
 別に断る理由はなかった。と、思う。戸惑いながらでも了承を得たのが嬉しかったのか、彼が軽く微笑む。そして手袋をはめたその手を伸ばし、私の右手を握った。
「帰ろっか」
「……うん」
 柔らかな革越しに、思ったよりも暖かな彼の手の温もり。そのことに自然と熱くなった頬を見られまいと俯けば、夕日に照らされ二つ寄り添う影が目に入り、いたたまれない気持ちになってしまう。だって、何だかまるで――。
「ピクニックにでも行こうか」
「は?」
 急な話題に思考を飛ばされエースを仰ぎ見れば、空いた片方の手を顎に当て、唸っているところだった。
「いや、でもそれじゃ違うか……」
「――何なのよ、急に」
 手を繋ごうと言ってきたり、ピクニックに誘ったり。不可解な言動を訝しめば、エースは軽くため息をついた。
「君が、俺に差し入れを持ってきてくれるには、どうしたらいいかなって」
「……さっきの続き?」
 ユリウスに差し入れを持っていったことを、まだ根に持っていたらしい。呆れているのだと態度で表したくて、わざとため息吐きながら答えた。
「俺のことで悩んで、俺のために時間を使って欲しいじゃないか。俺がいないところでも。ユリウスだけなんてずるいだろ」
「……ずるいって。子どもじゃあるまいし」
 と言いつつ、悪い気がしないのがいけないと思う。先ほどと同じ主張を繰り返す彼の言葉に、今度は呆れではなく胸の奥が疼いた。――多分、手を繋いでいるせいだ。いつもより距離が近くて、まるで……恋人同士のようだから。
「……何が好きなの?」
 私の問いに、今度はエースがぱちぱちと不思議そうに目を瞬かせた。
「だから、差し入れ。訓練の合間とか――私が休みで、あなたが仕事しているときに持っていってあげる」
「え、いいのか?」
「だから、好きなもの教えて」
「君だけど」
「〜〜〜〜っ!真面目に答えなさいよ!」
 揶揄われたと怒れば、エースが弾けるように笑う。腕を叩こうにも、手がしっかりと繋がれていて不可能だ。仕方なく睨み上げれば、エースが珍しく心から笑っているように見えて――一緒に笑ってあげるしかないじゃない、と繋いだ手をそっと握り返した。

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『張り紙の効力』 #エース
ピクスクイベントの店舗背景をお借りして描き足させて頂いた、『二人きりの夜間外出禁止』に関するお話です。
ダイヤの「もう少し傍に」EDのその後です。
疑似家族のあれこれを書くつもりが、少年エスアリ寄りのお話になりした。
(多分)ギャグです。




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「……ねえ、あれ何?」

 渡されたコーヒーカップを受け取りながら、お礼を言おうと口を開きかけたときだった。見慣れぬものを見つけ、思わず首を傾げる。クローゼットのドアに貼られた、真新しい紙に書かれた言葉。

『二人きりの夜間外出禁止』

 ユリウスって達筆よね、と思いながらコーヒーを口に含む。好みの香りと程よい苦味。当たり前だった日常が、また形を変えて戻ってきた。

「見ての通りだ」

 幸福感を満喫する私とは対象的に、ユリウスの返事は、ほんの少し苛立ちを含んでいた。
 そこでようやく気づく。

「これ、私達宛?」

 私達の『お付き合い』を勘違いした故のこれなのか。ちらりと本棚に目をやれば、真新しい本が増えている。タイトルを読むまでもない。育児本だろう。

「正確にはエースに、だ」

 ユリウスの言葉を受け後ろを振り向けば、相変わらず勝手に床に広げた敷物の上でくつろぐエースと目が合った。テントよりもささやかなそれを、ユリウスは文句を言いながらも受け入れている。

「ユリウスって本当に面白いよなあ」

 手元のトランプをパラパラと敷物の上にばら撒きながら、エースが明るい声で笑いかけてきた。

「ユリウスが心配しているようなことは、夜にしかできないわけでもないっていうのにさ」
「……言っておくけど、夜だろうが昼だろうが、あなたの考えているようなことは『ない』わよ」
「ええ? 俺の考えていることって、何?」

 矯正可能だと思っていた日々はそう昔ではないはずなのだが、やはり幼くてもエースはエース。段々と大人の彼を彷彿とさせる発言が増えて来ていた。正直、殴りたい。否、今の彼なら殴れる。
 手元のコーヒーをテーブルに置いて、立ち上がるべきかと考えたときだった。コンコン、と扉を叩くと音に重ねるように、ユリウスを呼ぶくぐもった声が聞こえた。ジェリコだ。

「何だ」
「悪いな。ちょっと――って、よお、アリス」

 ドアを開けるなり話し出した彼は、私に気づくと眼鏡の奥の目を細めて軽く手を上げた。最初は、私がここにいる度に軽く驚いていたけれど、居る方が当たり前だと認識するようになったらしい。
 けれどそれも一瞬のことで、張り詰めた空気を漂わせながらユリウスに視線を向ける。ドアの取手に触れたまま中に入ってこようとしない彼の行動に、ユリウスがため息をついて立ち上がった。

「少し出てくる。いいか、私のいない間に――」
「わかってるわ。勝手に部品に触ったりしない」

 そう先に言うと、ユリウスが眉根を寄せた。

「それもあるが――。いや、いい」

 何かを言いかけ、早足にドアへと向かい、振り返ることなく二人で消えてしまった。バタン、と閉まった扉の音が、何だか重く感じる。
 平和なここも、不意にちょっとしたバランスで崩れてしまうのだった。

「いつまで見てんの?」

 やや不機嫌そうな声に、ドアから目線を外し振り返る。敷物の上で胡座をかき、こちらを見つめる赤い瞳は、ある意味よく知っている剣呑な色を含んでいた。

「……ユリウスは駄目だ、って言ったの忘れた?」
「そんなんじゃないって言ったはずだけど?」

 抑揚を削ぎ落とした声に呆れながら返し、殺気未満の、けれどほぼ同様のをそれを受け流しながら立ち上がる。もう彼を殴る気も失せていた。本棚に向かい、慣れ親しんだラインナップに満足し、口元を緩める。

「……君が、ユリウスと仲良くしているとイライラするんだ」
「やきもちってやつじゃない?」

 もちろん、ユリウスにだ。適当に受け流しながら、気になったものを手に取ってみる。その隣にあるのは育児書で、ハートの国とはまた違う、親子のような二人の関係を微笑ましく思う。国が違っても、姿が違っても。関係の在り方が違っていたとしても、二人が一緒にいるという事実に、私はこの上もなく慰められていた。

 ――だって、大事な人と居られるのは、幸せなことだから。

 無意識に重ねた姿に、ずきりと胸が痛む。そのせいで、気付くのが遅れた。

「ねえ。今、誰のこと考えてたの?」

 不意に近くで聞こえた声に、驚き振り向く。と同時に、いつの間にか真後ろに立っていたエースが、右腕を本棚に伸ばす。まるで追い込まれるような形に目をみはった。今、私達の間には抱えた本一冊分の厚みしかない。

「な、え?」

 あまりの近さに上擦った声にも、彼は関心を示さず眉はしかめたままだ。

「ユリウスのこと?」
「ち、違うわよ」

 迫力に思わずたじろいだ。彼の殺気もどきは慣れていても、こう距離が近く逃げ場がないと、それなりに堪える。顔を伏せ、本を抱きしめ、少しでも距離を取ろうと無駄な足掻きをしてしまう。

「……ユリウスが」

 けれど、続いた言葉は逸らした視線を戻してしまうほど、苦痛に満ちていて。

「ユリウスが、君に心を開いているのがすごく嫌だ」
「……ええ」

 そうでしょうね。返事を飲み込みながら、小さく頷く。
 まるで父親離れしていない子ども、と言い切ってしまえばわかりやすいのかもしれない。けれど、彼の、彼らの関係はそう一言で表せるものではない。もっと、根深く重い。

「――そして、君がユリウスに心を開いているのは……。もっと……、嫌な気がする」

 絞り出されるように紡がれた言葉に、再度頷きかけ――首を傾げた。

「え、ええ?」

 私が呆気に取られて見つめるのにも気づかず、エースは私を本棚に追い詰め、床を睨みつけたままだ。赤いのに、深い海の底みたいな冷たい瞳は、いつの間にかくしゃりと歪んだ顔によって消えていた。

「……ユリウスだけで良かったのに。余計な物が増えた」

 ぽつりと溢した言葉は、ただただ悔しそうだった。思わず、手を伸ばしそうになる。
 エースは、エースだ。
 国が違っても、姿が違っても。厳密には同じ人ではない。それでも、根っこの一番その人がその人たる部分は、同じなのかもしれない。
 そう思ってしまうほど、大切な存在が気持ち悪いと言う彼と、目の前の彼を、とても近くに感じた。
 そして、笑顔という仮面のない、幼い彼の言葉は、まっすぐ私に届く。

 ――『余計な物』……か。

 それはどんな言葉よりも、彼の中で私の存在が大きくなっていることが察せられて、むず痒さを覚えてしまう。
 ふと、静まり返った部屋にカチコチと時計の音が聞こえてくるような気がして、頬が熱を持ち始めた。それだけ近い距離に、居心地の悪さがふつふつと湧き出す。いやいやいや、『お付き合い』ごっこの関係で、何をそんな――!
 一人沸騰し始めた頭を冷ましたのは、ガチャリと鳴ったドアの音だった。

「はあ……。ちっとも仕事が進まな――」

 続いたユリウスのぼやく声が、途中で止まってしまった。エース越しにばちりと合ったユリウスの目は、見たことがないほど大きく見開かれている。

「あ、お帰りなさい」
「早かったんだな」

 エースの声は、先程とは違いいつもの調子に戻っていた。

「っ、な――」
「「?」」

 二人首を傾げたところで、エースの服の衣擦れの音に距離の近さを思い出し――ふわ、と熱がぶり返した。のも良くなかったのだろう。

「なにをしている!!!」
 
 ユリウスの渾身の一喝に、美術館中の人間が駆けつけるのは、この少し後のこと。

ハートの国のアリスシリーズ 編集

『ゼロから』 #エース
ダイヤの国のアリス、ミラーのエースベストED後のお話です。(多分)ハッピー寄り。



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 さわさわと木の葉が擦れる音の中に、土を踏み締める足音が加わった。
 滅多に人が来ない墓地ではあるが、訪問者がいないわけではない。薄目を開けて木の下に視線を落とせば、見慣れた青と白がチラついた。
 風で流される栗色の長い髪を軽く抑えながら、もう片方の手には紙袋。こちらからは頭上のリボンが見える程度で、彼女の表情までは見えない。

「……」

 彼女はキョロキョロと辺りを見回す。誰かを探しているようだ。
 ――探しているようだ、なんて。
 自分の考えに自嘲し息を漏らす。誰を探しているかなんて明白なのに、『もしかしたら違うかもしれない』なんて臆病風を吹かせる己が、ひどく滑稽に思えたからだ。

「アリス」

 彼女の肩がぴくりと震え、上を仰ぎ見る。そうして目が合った彼女の表情に、思わず目を細めた。
 ただ、俺を見つけて笑っただけだというのに、狂わないはずの秒針がブレた気がしてしまう。ただ見かけただけで、俺を見つけたら、笑ってくれることを期待してしまう。

「それ、何?」
「ああ、えっと」

 木から飛び降り、彼女の手荷物について訊ねる。横髪を耳に掛け直しながら、アリスが目を泳がせた。けどそれは一瞬のことで、真正面から俺を見据える。

「一緒に、食べようと思って」
「へえ。じゃあお茶にする?」

 歩き出した途端、「そっちは墓地の奥でしょう」という言葉とともにコートを引っ張られる。最近よく行く湖は、墓地の奥だった気がしたが、彼女がそう言うのなら間違いないのだろう。

「連れて行ってよ」

 振り返り手を差し出せば、アリスが驚いたように目を瞬かせ、そしてゆっくりと微笑んだ。



  ◇  ◇  ◇



「はい、どうぞ」

 すっかり通い慣れてしまった湖畔を眺めていると、エースがコップを差し出した。つい今しがた、火を起こすとこから用意してくれた紅茶だ。――この人がコーヒーを淹れることはないのだなと、ふと思う。

「ありがとう」

 受け取り、エースが自分の分を飲み始めたのを見て、私もそろそろと口をつけた。まだ熱過ぎるけれど、口内から喉に至る頃には、じんわりと身体を温めてくれる。エースの淹れる紅茶は至って適当に見えるのに、何故だかほっとする。

「で、何を持ってきてくれたんだ?」
「あ、うん」

 紅茶で緩んでいた身が、緊張で引き締まる。ちらりと、紙袋に視線をやった。
 一緒に食べようと言ったお菓子は、衝動買いしたものだ。かつ、彼のことを思い浮かべて買った。だけれど、これをエースと食べるべきではないのかもしれないとも思う。――それでも、迷いながら持ってきてしまった。
 コップを簡易テーブルの上に置き、がさがさと紙袋からそれを取り出す。パッケージが見えたとき、わずかに彼が反応した気がした。

「……クッキー?」
「……ええ」

 ――わかるんだ。
 エースが、好きだと言っていたクッキー。こちらの国の、エースが、だ。
 これは甘くないから好きなんだ、とユリウスの部屋で喜んでいた姿が印象的で。何よりユリウスがエースのために用意していたことが、自分のことのようにすごく嬉しくて。今日ここに来る途中に、同じパッケージのこれを偶然見つけて買ってしまったのだ。
 もしかしたら、『エース』も『ユリウス』と食べていた思い出の味かもしれない。高揚した気分で買い物を済ませ店を出て、改めてエースに会いに行こうとしたところで気がついた。
 もし、このクッキーが思い出の味だったとして。それ、嬉しいのかしら――と。

「……食べたこと、ある?」

 たとえ食べたことがなかったとして、この国のエースが好んでいることを知っていたら、いい気はしないかもしれない。
 踏み込み過ぎだと思う。
 それでも、仮にこれが好きだったお菓子だとして。それを懐かしむことぐらい、彼が彼に許してくれればいいと、思ってしまう。――同時に、これはそうあって欲しいと願う、私のエゴでしかない。単なる押し付けだ。
 でも、それですら今の彼は受け入れてくれる気がして、甘えるように持ってきてしまった。

「……どうだろう」

 ぽつりと溢した声は色がないのとも違うけれど、ここではなく遠くに向かっていて。
 ――傷つけて、しまっただろうか。
 謝るのは違う気がして、代わりにきゅっと口を引き結んだ。紙袋の中から、違うお菓子も取り出そうと手を差し込む。

「あの、他のもあるんだけど――」

 けれど、すっと伸びてきた彼の腕に言葉を詰まらせた。あっという間に、私の膝に置いていたクッキーを取り上げ、パッケージを破いてしまう。ふわりと漂った香ばしい匂いに、ユリウスの部屋で喜んでいた、幼いエースの顔が浮かんだ。
 一連の行動をただ眺めるしか出来なかった私を、一度も見ることなくエースはクッキーを一つ摘んで、口の中に放り込んだ。

「……うん」

 もぐもぐ、と口を動かす横顔は、何だか幼く見える。

「――やっぱり、甘くなくて美味しいよ」
「…………そう」

 美味しい、と言う彼の声は、私のよく知るいつも通りの彼のものだった。嘘っぽすぎるほど爽やかで。あのときのように、わかりやすく気持ちを話してくれた彼とは違う。夢と現実の狭間ではないからだろうか。それとも、たわいのない思い出は話だから? まだ、遠い。
 そこまで考えて、自覚した思いに、きりきりと胸が締め付けられた。
 エースに昔を懐かしんで欲しいとか、そんなんじゃなかったのだ。ただ、この人に近づけたことを実感したかっただけなんだわ。
 あまりにもどうしようもない、子どもじみた行動を恥じる。それでも、このクッキーを食べたことがあることを隠さなかったことに、高揚してしまう。彼が、私を好きだという言葉に嘘がないのだと、思いたい。

「ねえ」

 続けてもう一つ、クッキーを摘んだ彼に話しかければ、やっとこちらを見た。赤い瞳の奥に潜む感情を、私はまだ明確に言葉には出来ない。前よりはわかるようになったけれど、それでは足りない。予想するのでもなく、偶然居合わせるのでもなく。

「あなたの、好きなものを教えてよ」

 ようやく、色んなことを見せてくれて、向き合う覚悟ができた今だからこそ。
 今、目の前にいるあなたの口から、聞きたいことがたくさんある。

ハートの国のアリスシリーズ 編集

『五十歩百歩』 #エース
ハートの国のアリス15周年で書きました。このCPに15年狂ってる……。




****************



「……どう?」
 サクリ。
 軽い音を立てて、彼の口の中に飲み込まれたパイ。その瞬間、ほんの少しだけ目を見開いたような気がする。いや、私の期待が見せた幻覚かもしれない。
 相手に気取られぬように一旦視線を逸らして、給仕するために使ったトレーを握り直した。
「──すごくおいしい」
 驚きに満ちた、と言ってもいい声音。
 抑えきれぬ高揚を内にありありと感じて、口元がゆるまぬよう引き締めた。
「で、でしょう。ちょっと色々研究してみたのよね」
 あえて高慢に返しながら、垂れた横髪を耳に掛け直す。おいしい、と言われた事実に浮き足立つ心を隠すことができなくて、彼に視線を向けられない。
それが、いけなかった。
「研究、ね。
何回も作ったの?」
「そりゃ、まあ」
 会いたいと思ったときに会えるわけではない人。ちょっと待っててと言ってそのまま迷子になり何十時間帯も会えない、なんてこともザラにある。それがエースという男だ。
 彼に会えたタイミングで食べさせるために、それは何度も何度も作ったのだ。
 よりおいしく作るための実験だと称して――。
「へえ」
 さっきまで浮かれていた心が、たった一言で嘘のように冷え切る、低い声音。
 続いて、いつの間にか背後に回っていた彼に抱き寄せられた。
「ちょっ」
「誰のために作ってたの?」
 ──誰の。
 耳元で囁かれ、普通なら顔を赤らめるような場面なのだろう。でもちっとも甘くない。
 ただただ、『痛い』。
「――あなたのためよ」 
 わかってもらえない。どこまでも。
 私が、あなた以外の人に、手作りのパイを食べてもらいたいとでも?
 唇を噛みしめ目線を落とせば、赤いコートの袖と、白い手袋が映る。
 はっきり言葉にしても、この男に私の言葉は届かないのだろう。喜んでたって、笑っていたって。それは表面だけだ。
 気軽に触れてくるくせに、エースの奥底を動かす衝動に、私はなり得ない──。
「……そっか」
 拍子抜けしたような声音に、痛みがじくじくと増す。欠片ばかりも自分のためにとは思わなかったのだろう。なんなのよ。あなた以外の誰に作ると思ってたの。
 痛みが段々、苛立ちへと形を変え始めたときだった。
「じゃあ、今まで作ったやつは誰が食べたの?」
「は──?」
 思わず、首だけで振り返って彼の顔を見てしまう。赤い瞳が、私を捉える。そこに冷たさはない。
「……ビバルディとか、ペーターとか、同僚のメイドたちとか」
「ふうん」
 面白くなさそうに口をへの字に曲げた彼の子どもっぽい表情に、くすぶり始めていたイライラが収まり始める。
 ──これは、妬いていると解釈していい?
 そう思った途端、頬が熱く、息が苦しくなる。今のこの態勢がいたたまれなく、でもコート越しとはいえ伝わる熱が、どうしようもなく心地良い。
「ねえ。もう、俺以外に食べさせないでくれる?」
「──あなたが、作る間くらい待っててくれたらね」
 たまにしか会えないこの人に、そのままそばにいてと正直に言えば──。
 彼はいてくれるのだろうか。
 でも、そんなことを言える可愛げさも勇気も、私は持ち合わせていない。
 だから、近づく瞳に無言で応じて目を閉じた。

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『待ち焦がれていた人は、』 #エース
スぺアリカウントダウン企画参加で書きました。
どの国でも、エースのことを待っていたらいいなと思っています。




****************



 ひっかきほつれた、ボロボロの裾。時間が経てば元通りになるというのに、彼のコートの裾はいつでも酷い有様だ。修復すら追いつかないほど、悪路を通っているということだろうか。それとも、路みちのせいだけではないのだろうか。

「……相変わらずみたいね」

 動きかける心を勤めて均ならせば、思ったよりも無愛想な声が出た。
 カチン、と甲高い金属のぶつかる音。そこそこ地位が高いらしい騎士にしては、簡素な造りの鍔つばが鞘に納められた。
 そこで初めて彼がこちらへ向き直る。相変わらずの、ずっと見たかった笑みを携えて。

「心配してくれてるの?」

 ぱたりと、彼の赤い赤い裾から雫が落ちる。すぐに土に染みて黒く変わったそれは、一時も経てば何の痕跡も残さず消えてしまうのだろう。

「全然心配なんかしてないけど」
「へえ」

 そっか、と対して感心を含まない声に、こちらが傷つく。私のことなど、そこらに転がした刺客と大差ないのだろう。

「……探してはいたわよ」
「……そっか」

 少しだけ色を帯びたその声に後押しされて、一歩を踏み出す。ポケットからハンカチを取り出しながら、躯むくろの間を通り抜ける。

「しゃがんで」
「?」
「早く」

 意味もわからないまま素直に従う彼の顔は、年相応に見えた。
 何も含むところのない、真っ当な騎士。
 ――頬についた返り血を除いて。
 ずっと見たかった顔にその赤は邪魔に思えて、壊れものに触れるように、そっとハンカチを押し当てた。

「……汚れちゃうよ」
「洗うからいいわよ」

 彼の側までくると、血の匂いでむせ返りそうだ。思わず顰しかめた眉に対してなのだろうか。彼は微笑んで、ハンカチを持つ私の手に大きな手を重ねる。
 血に染まった手袋で。
 ぬるりと、何とも言えない感触が手の甲を這う。

「君は変わってる」
「あなたには言われたくないわ」

 
 周囲を染める赤よりも、久方ぶりに会えた赤しか目に入らなくて。
 思ったよりも重症なのだと、震える胸の様をありありと受け止めるしかなかった。

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