猫の額
『EAT ME』
#ブラック×アリス
スペードのブラックさんとアリス。CP未満ですが、以前リク頂いた「甘め」のボツ話なので、甘めのつもりです、
黒発売カウントダウンでリサイクル。
「わた、しを食べて……?」
いつも通りといえばいつも通り。いつのまにか目の前に立っている建物の戸を開ける。今日出迎えてくれるのはどちらだろうか、あるいは誰なのか。けれど、予想に反して中はもぬけの空だった。躊躇ったところで後ろに帰る道が現れるでもなく、仕方なく中へ入る。かららん。ベルが鳴り戸が閉まり、ふと目についたのは、カウンターにぽつりと置かれたガラス瓶。中には色鮮やかなアイシングクッキー。思わず手に取れば瓶の首にはタグがくくりつけられており、
『わたしを食べて』
と書かれたままに読み上げた声が、ぽつりと落ちたときだった。
「なんだ、食わねえのかよ」
「ぎゃあっ」
急にかけられた声に振り返れば、眉を顰めた『彼』がいた。ブラックさんだ。その表情を見なくたって、話し方だけですぐにわかる。
「なんつー悲鳴」
耳に指を突っ込みながら顰められた顔に、赤面しながら答える。
「い、いいじゃない。それに、子どもじゃないんだから、家主がいないのに食べたりしないわよ」
「はあ?ガキのくせに何言ってんだ」
否定しようと口を開こうとしたが、その前に彼に瓶を奪い取られてしまった。きゅきゅっと音を立てて、コルクの蓋があっさりと彼の手によって外される。そうして瓶を傾け転がり出たクッキーは、まるで装飾品のように可愛らしいのに、とても美味しそうだった。
「ほら、食えよ」
「い、いいわよ」
つまんだクッキーを、口元に押し付けられそうになり身を引けば、軽い舌打ちが聞こえた。
「食えって書いてんだから、食えばいいだろ」
躍起になったように強引なそれに困惑しながらも、ふわりと漂う甘い匂いに判断が揺らぐ。迷って迷って、受け取ろうかと手を伸ばし口を開いたときだった。
「っ、ぐ」
――口に押し込むとか! 戸惑いと怒りに味もわからず、ただ必死に目の前の男を睨み上げることしかできない。
「ほんっと、記憶がなくなっても、ぐずぐずしたとこは変わんねえな」
だから、こんなとこに来るんだよ。
なんだか聞き覚えのあるような言葉に気を取られていると、ジョーカーの指先が唇に触れた。
撫で上げるように指の腹が滑り、爪の切っ先がその後を掠っていく。
背筋まで響くようなその感触に、頭が、真っ白になる。
ごくり、と反射で飲み込んだ頃には指も離れ、彼は何事もなかったように自分の口にもクッキーを放り込む。そしてあろうことか、その指を、さっき私の唇に触れた指を――ぺろりと舐め上げた。
「? どうした」
「…………何でもないわよ」
大した意味なんてない。きっと、大した意味なんて――。
「〜〜〜コーヒーちょうだい!」
「うるせえガキだな」
笑った顔を、まともに見ることができなかった。
2023.08.01 16:14:32
ハートの国のアリスシリーズ
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『EAT ME』 #ブラック×アリス
スペードのブラックさんとアリス。CP未満ですが、以前リク頂いた「甘め」のボツ話なので、甘めのつもりです、
黒発売カウントダウンでリサイクル。
「わた、しを食べて……?」
いつも通りといえばいつも通り。いつのまにか目の前に立っている建物の戸を開ける。今日出迎えてくれるのはどちらだろうか、あるいは誰なのか。けれど、予想に反して中はもぬけの空だった。躊躇ったところで後ろに帰る道が現れるでもなく、仕方なく中へ入る。かららん。ベルが鳴り戸が閉まり、ふと目についたのは、カウンターにぽつりと置かれたガラス瓶。中には色鮮やかなアイシングクッキー。思わず手に取れば瓶の首にはタグがくくりつけられており、
『わたしを食べて』
と書かれたままに読み上げた声が、ぽつりと落ちたときだった。
「なんだ、食わねえのかよ」
「ぎゃあっ」
急にかけられた声に振り返れば、眉を顰めた『彼』がいた。ブラックさんだ。その表情を見なくたって、話し方だけですぐにわかる。
「なんつー悲鳴」
耳に指を突っ込みながら顰められた顔に、赤面しながら答える。
「い、いいじゃない。それに、子どもじゃないんだから、家主がいないのに食べたりしないわよ」
「はあ?ガキのくせに何言ってんだ」
否定しようと口を開こうとしたが、その前に彼に瓶を奪い取られてしまった。きゅきゅっと音を立てて、コルクの蓋があっさりと彼の手によって外される。そうして瓶を傾け転がり出たクッキーは、まるで装飾品のように可愛らしいのに、とても美味しそうだった。
「ほら、食えよ」
「い、いいわよ」
つまんだクッキーを、口元に押し付けられそうになり身を引けば、軽い舌打ちが聞こえた。
「食えって書いてんだから、食えばいいだろ」
躍起になったように強引なそれに困惑しながらも、ふわりと漂う甘い匂いに判断が揺らぐ。迷って迷って、受け取ろうかと手を伸ばし口を開いたときだった。
「っ、ぐ」
――口に押し込むとか! 戸惑いと怒りに味もわからず、ただ必死に目の前の男を睨み上げることしかできない。
「ほんっと、記憶がなくなっても、ぐずぐずしたとこは変わんねえな」
だから、こんなとこに来るんだよ。
なんだか聞き覚えのあるような言葉に気を取られていると、ジョーカーの指先が唇に触れた。
撫で上げるように指の腹が滑り、爪の切っ先がその後を掠っていく。
背筋まで響くようなその感触に、頭が、真っ白になる。
ごくり、と反射で飲み込んだ頃には指も離れ、彼は何事もなかったように自分の口にもクッキーを放り込む。そしてあろうことか、その指を、さっき私の唇に触れた指を――ぺろりと舐め上げた。
「? どうした」
「…………何でもないわよ」
大した意味なんてない。きっと、大した意味なんて――。
「〜〜〜コーヒーちょうだい!」
「うるせえガキだな」
笑った顔を、まともに見ることができなかった。