猫の額








『どんなに面倒でも』 #クイン×アリス
スペード白、ベストエンド後。
黒発売カウントダウンで書きました。



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「随分とご機嫌ですね」
 そう言った本人は、至って機嫌が悪そうだ。思わず書類をまとめていた手を止める。
「そう?」
「ええ。今にも鼻歌が始まるかと思うほどでした」
 にっこり。きっと、少し前ならそう笑っただろう。けれど今、彼は明らかに面白くなさそうに、組んだ手の上に顎を置き目を細めている。
「……私、何かしたかしら」
「いいえ? 教団を変えてやると啖呵を切るだけに留まらず、正に飛ぶ鳥を落とす勢いで色んなことが変わっていますよ。あなたに意見を聞きたいが、どこにいるかと今日も尋ねられました。何かしていないなど、謙遜にも程がありますよ」
「…………」
 一息で言い切った彼は、やはり笑わない。確かに皆の信頼を得られ始めている手応えはある。しかし、教団を変えてやるとは言ったが、クインを引き摺り下ろしたいと思っているわけではない。何と返したものか。内容によっては中々に面倒だ――と思案していると、クインが組んでいた手を外し、ため息をついた。
「本当に、あなたが楽しそうで何よりですよ」
「――そうは見えないけれど」
「そうですか? 結構本気で思っていますけどね」
 立ち上がり、私の横へ並ぶ。そうしてそっと触れた先は、彼に嵌められた銀色に光る指輪。それを撫でる指先は、壊れ物でも扱うように優しい。
「婚約者を放置しても、全く気にしないところ。私は結構好きですから」
「ご、ごめんなさい……」
「好きだと言ったんですが」
 ああ、何て面倒な人。整った顔立ちと、荘厳な衣装に似合わない不機嫌そうな表情。そして周りくどい言葉。それらはきっと、皆の知る彼からは程遠く、少し幼くすら見えて、ぐっと胸の底が突き上げられるような感覚に、観念して口を開いた。
「――私も好きよ」
 それはそれは嬉しそうに笑う顔も、きっと私しか知らないのだろう。

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