猫の額
『とわに』
#カーティス
「気絶2」の後を想定したお話です。エンド前。
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****************
煌々と輝く月は、昔から好きだった。
同業者には仕事がやりにくいからと厭う者が多いのは知っている。けれど、強すぎる光故に、闇がいつもより濃くなるのを知らないのだろう。明るさは人の目を眩ませ視界を奪う。これほど、〝仕事〟に向いた日和もない。
それに、と腕の中の温もりに目を向ける。
濃く青い髪が、寝台の上に広がっている。月明かりを受けた夜の空の色と同じだ。
そっと手を伸ばせば、柔らかで滑らかな髪が指の間をすり抜けていく。呼吸に合わせて上下する肩や、月明かりに照らされ白く輝く彼女の頬を眺める。
まるで陽の光のような月明かりは、彼女によく似合う。
白い光に照らされた彼女は、女神と呼ぶのが相応しいとすら思う。
「アイリーン」
呼びかけるけれど、返事はない。代わりに寝息を立てる口が閉じて、また開いただけ。その僅かな変化すらも愛しくて、口角が緩む。
「愛しています」
今は見えない瞳と同じ色の髪を一房手に取り、口付ける。聞こえぬ愛の告白など、何の意味があるだろうと以前の自分なら思うだろう。
でも、足りないのだ。
彼女を前にすれば思いが募って溢れて仕方がない。いくら伝えても、足りない。たとえ届いていなかろうが、構わない。
「……ん」
アイリーンの長い睫毛が震え、そしてゆっくり持ち上げられていく。
「カー、ティス?」
「すみません、起こしてしまいましたか」
目を覚まさせてしまったことを心底申し訳なく思いながらも、微睡の抜けきれない彼女の声と、光を反射する美しい瞳に心臓の高鳴りが抑えられない。
「ううん……。もしかして、寝てないの?」
「僕、数日は寝なくても平気ですから」
まだ、彼女と出会ったばかりの頃、同じことを言ったことがある。あの呆れたような顔も、今なら可愛いと思うだろう。
「……だめよ」
むっと唇を尖らせた彼女が、僕の頬に触れる。
「ちゃんと、寝て?」
身体に悪いわ。
小さい囁き声が、いつまでも頭の中で反響して消えない。僕のことを心配して、その瞳に映るのがたった一人である事実に、胸がしめつけられ息が出来ない。
闇の中に生きる人間だからこそ、眩しすぎて濃い影を落とす彼女のそばが落ち着くはずなのに。
どこよりも暗いから、彼女を守ることができるのに。
ほんの少しの言葉で、あっという間に彼女の横に引き上げられてしまう。彼女の作る濃い影の中ではなく、光の元でもいいから、すぐ側で寄り添いたいと思ってしまう。
「アイリーン」
先ほどよりも、熱を帯びた声で彼女の名前を呼ぶ。彼女の横は眩しいのに、目を閉じたくない。
「愛しています」
どれだけ伝えても追いつかないから、このまま彼女への想いに溺れて死ぬのだろう。
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2021.09.25 21:47:59
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煌々と輝く月は、昔から好きだった。
同業者には仕事がやりにくいからと厭う者が多いのは知っている。けれど、強すぎる光故に、闇がいつもより濃くなるのを知らないのだろう。明るさは人の目を眩ませ視界を奪う。これほど、〝仕事〟に向いた日和もない。
それに、と腕の中の温もりに目を向ける。
濃く青い髪が、寝台の上に広がっている。月明かりを受けた夜の空の色と同じだ。
そっと手を伸ばせば、柔らかで滑らかな髪が指の間をすり抜けていく。呼吸に合わせて上下する肩や、月明かりに照らされ白く輝く彼女の頬を眺める。
まるで陽の光のような月明かりは、彼女によく似合う。
白い光に照らされた彼女は、女神と呼ぶのが相応しいとすら思う。
「アイリーン」
呼びかけるけれど、返事はない。代わりに寝息を立てる口が閉じて、また開いただけ。その僅かな変化すらも愛しくて、口角が緩む。
「愛しています」
今は見えない瞳と同じ色の髪を一房手に取り、口付ける。聞こえぬ愛の告白など、何の意味があるだろうと以前の自分なら思うだろう。
でも、足りないのだ。
彼女を前にすれば思いが募って溢れて仕方がない。いくら伝えても、足りない。たとえ届いていなかろうが、構わない。
「……ん」
アイリーンの長い睫毛が震え、そしてゆっくり持ち上げられていく。
「カー、ティス?」
「すみません、起こしてしまいましたか」
目を覚まさせてしまったことを心底申し訳なく思いながらも、微睡の抜けきれない彼女の声と、光を反射する美しい瞳に心臓の高鳴りが抑えられない。
「ううん……。もしかして、寝てないの?」
「僕、数日は寝なくても平気ですから」
まだ、彼女と出会ったばかりの頃、同じことを言ったことがある。あの呆れたような顔も、今なら可愛いと思うだろう。
「……だめよ」
むっと唇を尖らせた彼女が、僕の頬に触れる。
「ちゃんと、寝て?」
身体に悪いわ。
小さい囁き声が、いつまでも頭の中で反響して消えない。僕のことを心配して、その瞳に映るのがたった一人である事実に、胸がしめつけられ息が出来ない。
闇の中に生きる人間だからこそ、眩しすぎて濃い影を落とす彼女のそばが落ち着くはずなのに。
どこよりも暗いから、彼女を守ることができるのに。
ほんの少しの言葉で、あっという間に彼女の横に引き上げられてしまう。彼女の作る濃い影の中ではなく、光の元でもいいから、すぐ側で寄り添いたいと思ってしまう。
「アイリーン」
先ほどよりも、熱を帯びた声で彼女の名前を呼ぶ。彼女の横は眩しいのに、目を閉じたくない。
「愛しています」
どれだけ伝えても追いつかないから、このまま彼女への想いに溺れて死ぬのだろう。
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