猫の額








『告白というにはあまりにも、』 #ボリス
どこかの国の私の猫の話。




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「俺、あんたになら首輪をつけられてもいいな」
 
 とろりと溶けてしまいそうなほど、ご機嫌な声。いや、ご機嫌というには艶が含まれ過ぎていて、思わず目を泳がせた。
 それでも、膝の上にあるピンク頭を撫でる手は止めない。黒い毛の生えた耳が、時折ピクピクと動く。
 窓からは夕陽が差し込む、一日の中で最もゆったりした時間。次にくるのは夜か昼か。そんな落ち着かなかった日常にも、すっかり馴染んでしまった。あんなに恥ずかしかった膝枕も、いつの間にか当たり前になってしまっている。
「あなた、猫のくせに……」
 どう答えたものかと、困って絞り出した言葉。飼い猫のダイナに首輪をつけるときは、それはもう大変だったのだ。首輪など窮屈なもの、本来ならば喜んで迎え入れるものではないだろう。
「確かにね」
 今度は、あくびともともに返ってきた言葉。可愛い、と思うまもなく彼の頭が太腿と腹に擦り付けられて、びくりと身体を震わせた。
「ちょ、っと」
「でもさ」
 ごろりと猫が仰向けに転がる。ぴたりと合った目線。頬が熱くなるのを感じながらも、細められた金の瞳から目を逸らすことができない。
「俺、アリスといられるなら、猫じゃなくてもいいよ」
 
 きっと、私の猫にとっては至上の愛の言葉。

ハートの国のアリスシリーズ 編集

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