猫の額








『七夕』 #子龍
七夕テーマでアンケートを取って書いたときのものです。初書き子龍くんでした。



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「それで、花殿はどんな願いごとを?」
 七夕のことを思い出して話してみれば、意外な質問がきて首を傾げた。
「今までのってこと?」
「はい」
「えっと⋯⋯。家族みんな元気で過ごせますように、とかだったかな?」
 最後に書いたのはいつだっただろうか。毎年必ず七夕のことは思い出しても、短冊に願いを書いた記憶は遥か昔だ。
「――そうですか」
 子龍くんの硬い声に振り向けば、彼は悲しそうに目を伏せていた。
「子龍くん?」
「――竹、ですね。少しお待ち頂けますか」
「え?」
「へ?何、え、ちょっと待って!」
 今すぐにでも飛び出していきそうな彼の夜着をはっしと掴む。
「どこに行くの?」
「願い事は笹の葉に吊るすのですよね? 竹を取ってきます」
「え、何で――」
「ご家族の息災を祈らなければ」
 あ、と思わず声が漏れた。
「でも」
「……大丈夫だよ」
 彼の手をとって、ゆっくりと首を振る。
「子龍くんの、その気持ちだけで」
 私は今、こんなに優しい人と暮らしている。
「短冊に書かなくたって、絶対に届くよ」

三国恋戦記 編集

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