猫の額








『聖なる夜の嘘ひとつ』 #孟徳
#三国恋戦記・今日は何の日
『クリスマス』
エンド後のお話です。ほぼほぼ初めてちゃんとした孟花書きました。




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「どうしたんですか、これ……」

 ちょっと散歩をしよう。凍えるような寒さの日、陽が落ちきると孟徳さんが言った。今からですか? 聞き返すよりも先に暖かな外套を二枚ほど着せられ、ご機嫌な彼に手を引かれる。回廊に出れば一気に芯まで冷え切りそうで、そっと孟徳さんに身を寄せた。辿り着いたのは、いつもの東屋――ではなかった。
 卓に、椅子に、床に。さまざまな形をした灯りが、東屋一面を埋め尽くしている。

「今日、花ちゃんの国だとこういうのが見られるんでしょ」

 本物とは似ても似つかないかもしれないけれど。ツンとする鼻を無視して大きく首を振り否定する。

「……とっても、とっても綺麗です」
「なら良かった」

 嬉しそうな孟徳さんの笑顔が、灯りを受け殊更柔らかい。

「準備してくれたこともですけど――。覚えてくれてたのが、一番嬉しいです」
「俺、花ちゃんのことなら何だって覚えてるよ」

 おどけるような口調に、くすりと笑って繋いだ手に力をこめた。冷たい夜風に時折揺れる灯籠の灯り。元の世界で見たどんなイルミネーションよりも、こっちの方が綺麗で愛しい。

「――寂しい?」

 急な言葉に息を呑んだ私に、孟徳さんが笑った。

「ごめん。意地悪だね」
「……そうですよ」

 答える前に、決めつけないでほしい。そして、傷つくと思いながらも訊かずにはおれない彼の揺れる心に届く言葉を、あえて紡ぐ。

「寂しいです」

 孟徳さんは一瞬驚いたように目をみはって、そして泣きそうに笑う。またひとつ、好きな彼の笑顔が増えた日。

三国恋戦記 編集

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