猫の額
『冬』
#華佗
エンド後のお話です。魁四周年記念の際に書いたものの一つです。
****************
「華佗さんは何の季節が一番好きですか?」
彼女を迎えに行った帰り道。制服姿の彼女が振り返る。再開したときより少し長くなっていた髪を肩口に切り揃えていたものだから、ふと出会った頃のことを思い出した。
「巴ちゃんは、いつが好きなの?」
「……私が訊いたんですけど」
質問に質問を返せば、彼女が唇を尖らせる。ごめんごめん、と返せば華陀さんてそういうとこありますよね、と拗ねてしまった。
「あー、……ごめんってば」
「別にいいですよ」
「いやいやいや……。全然怒ってるよね」
「怒ってなんかないですよ」
と返す言葉が刺々しい。こうして気軽に怒ったり拗ねたり――。もう隠し事のない身になったからだろうか。巴ちゃんはあの世界にいたときよりも気持ちをまっすぐにぶつけてきてくれるようになった。
彼女と繋いでいた手に、少し力を込めて引き寄せる。足取りが崩れて立ち止まったところで向き直り、彼女の手を胸元で再度握りしめた。
「巴ちゃん」
彼女がおずおずと目線をあげる。少し困ったような、身構えるようなその表情。
「ごめんね?」
「……だから怒ってないですってば」
謝れば、少し頬を染め困る巴ちゃんの表情が、とても好きだと思う。
「実を言うとさ」
僕の言葉に合わせて、伏目がちだった彼女の目線が上がる。
「季節って、あまり意識したことなくって」
気候を気にせず暮らせるような遠い遠い未来から来た僕にとって、季節はとりたて意識するようなものではなかった。そうなんですか、と驚いた顔をした彼女が小さく呟く。
「あそこに居たときもさ、ああ面倒くさいなあなんてぐらいで。だってさ、暑かったり寒かったり、大変でしょ」
好きとか、そんなの考えたことなかったんだよね。
その言葉に、巴ちゃんがほんの少し寂しげな顔をして頷いた。ああこの話はここで終わりではなくて。
「だからさ。一人でずっと巴ちゃんを探しているときにね」
握った手から伝わる彼女の温もりに、昔を思い出しながら自然と口元が緩む。
「巴ちゃんはこの世界で、花見でお団子食べたり、海に行ってスイカ食べたり、食欲の秋を堪能したり、冬には鍋をしたり」
「――何で食べることばっかりなんですか?」
「いやいや、大事ですよ?」
不満げに唇を突き出す彼女の頬をつつく。
「食べることは生きることだからね」
「……」
「まあ、君が食いしん坊であることは事実として――」
「何でですか!」
抗議の声に笑い声を返せば、繋いでいた手に力を込められた。どうしたの、と聞こうとして言葉を失う。
「それ、全部一緒にやりましょうね」
「……うん」
涙ぐんで言うようなことかな。
君は昔からそう。優しくて、優し過ぎて、言葉にしないものまで汲み取って。
一人、革靴片手に君のことを想っていた僕の時間を、暖かなものに変えてしまう。
「そうだね」
彼女と、自分の目尻にも滲んでしまったものを拭って、笑い合って。どちらからともなく歩き出す。
君の好きな季節を共に過ごして、二人の好きな季節を探していこう。
2021.08.25 18:52:01
三国恋戦記 魁
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「華佗さんは何の季節が一番好きですか?」
彼女を迎えに行った帰り道。制服姿の彼女が振り返る。再開したときより少し長くなっていた髪を肩口に切り揃えていたものだから、ふと出会った頃のことを思い出した。
「巴ちゃんは、いつが好きなの?」
「……私が訊いたんですけど」
質問に質問を返せば、彼女が唇を尖らせる。ごめんごめん、と返せば華陀さんてそういうとこありますよね、と拗ねてしまった。
「あー、……ごめんってば」
「別にいいですよ」
「いやいやいや……。全然怒ってるよね」
「怒ってなんかないですよ」
と返す言葉が刺々しい。こうして気軽に怒ったり拗ねたり――。もう隠し事のない身になったからだろうか。巴ちゃんはあの世界にいたときよりも気持ちをまっすぐにぶつけてきてくれるようになった。
彼女と繋いでいた手に、少し力を込めて引き寄せる。足取りが崩れて立ち止まったところで向き直り、彼女の手を胸元で再度握りしめた。
「巴ちゃん」
彼女がおずおずと目線をあげる。少し困ったような、身構えるようなその表情。
「ごめんね?」
「……だから怒ってないですってば」
謝れば、少し頬を染め困る巴ちゃんの表情が、とても好きだと思う。
「実を言うとさ」
僕の言葉に合わせて、伏目がちだった彼女の目線が上がる。
「季節って、あまり意識したことなくって」
気候を気にせず暮らせるような遠い遠い未来から来た僕にとって、季節はとりたて意識するようなものではなかった。そうなんですか、と驚いた顔をした彼女が小さく呟く。
「あそこに居たときもさ、ああ面倒くさいなあなんてぐらいで。だってさ、暑かったり寒かったり、大変でしょ」
好きとか、そんなの考えたことなかったんだよね。
その言葉に、巴ちゃんがほんの少し寂しげな顔をして頷いた。ああこの話はここで終わりではなくて。
「だからさ。一人でずっと巴ちゃんを探しているときにね」
握った手から伝わる彼女の温もりに、昔を思い出しながら自然と口元が緩む。
「巴ちゃんはこの世界で、花見でお団子食べたり、海に行ってスイカ食べたり、食欲の秋を堪能したり、冬には鍋をしたり」
「――何で食べることばっかりなんですか?」
「いやいや、大事ですよ?」
不満げに唇を突き出す彼女の頬をつつく。
「食べることは生きることだからね」
「……」
「まあ、君が食いしん坊であることは事実として――」
「何でですか!」
抗議の声に笑い声を返せば、繋いでいた手に力を込められた。どうしたの、と聞こうとして言葉を失う。
「それ、全部一緒にやりましょうね」
「……うん」
涙ぐんで言うようなことかな。
君は昔からそう。優しくて、優し過ぎて、言葉にしないものまで汲み取って。
一人、革靴片手に君のことを想っていた僕の時間を、暖かなものに変えてしまう。
「そうだね」
彼女と、自分の目尻にも滲んでしまったものを拭って、笑い合って。どちらからともなく歩き出す。
君の好きな季節を共に過ごして、二人の好きな季節を探していこう。