猫の額








『紅』 #早安
同じテーマで全員分書いた掌編です。一人一ページという縛り付きでした。
一部は友人に書いてもらったため、ここにはありません。pixivに掲載しています。
2022/03/19




****************

 干し芋に塩。干し肉もすすめられたけれど、私にはまだ品質の良し悪しを見分ける自信がなくて、とりあえず断った。
 早安と二人で暮らす場所を探す道中。店主も行き交う人々も、生き生きとしているこの街は、私達にとってはどうだろうか。
そんなことを、肩に手提げを掛け直しながら考える。
 待ち合わせの場所まで辿り着けば、まだ早安はいなかった。とりあえず壁際に寄ると、早安が真剣な顔をして小物屋を眺めているのが目に入り、微笑みながら近寄る。でも、珍しいことに私には気づかない。何をそんなに真剣に――。そっと横から覗いてみれば、そこには女性ものの小物。
「⋯⋯何か買うの?」
「!?」
これまた珍しく驚いた早安に、くすくすと笑えば彼
は気まずそうに頭を掻いた。
「何見てたの?」
「⋯⋯いや」
ちらりと、一瞬私の顔を見て、目を伏せる。
「⋯⋯同じの、あるかなと思って」
「同じって?」
くし、手鏡、髪飾り。
耳飾りも少し。それらの品を横目で眺めていると、「でもまあ」と早安が呟いた。
「お前は」
早安の手が、私に伸びる。
「そのままでもいいな」
 その言葉の意味は、私にはちっともわからなかったけれど。目を細めて笑った、柔らかな早安の表情と、少しだけ唇に触れた指先に――。
「行こうか」
 笑いを含んだ声に、頬を膨らませてみながら、差し出された手を取る。歩いている内に、顔の火照りも収まるだろうか。

三国恋戦記 編集

Powered by てがろぐ Ver 4.1.0.