猫の額








『紅』 #孟徳
同じテーマで全員分書いた掌編です。一人一ページという縛り付きでした。
一部は友人に書いてもらったため、ここにはありません。pixivに掲載しています。
2020/08/08 修正:2022/03/19




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「うん。やっぱり似合うなあ」
 隣でにこにこと見つめられて、照れ臭い。先日孟徳さんから贈られた紅を、せっかくだからとつけてみたところに、孟徳さんがやってきた。あまりつけ慣れていないから、自分としては違和感のあるそれも、孟徳さんが嬉しそうだと悪くない気がしてくる。
「あーでも残念だなあ」
「⋯⋯何がですか?」
 はあ、と大仰についたため息。
 けれども、顎に手をつくその表情は、柔らかくまだ私を見つめたままだ。
「中々つけてくれないからさ。今日もつけてなかったら、俺が紅をつけてあげようかなって思ってたんだよ」
 それを聞いて、途端に申し訳なくなる。
 贈ったものに手をつけなければ、不安にもなるだろう。気に入ら
ないと、勘違いされたかも。
「すみませ――」
 けれど、弁解は途中で止められた。
「こうやって――」
 孟徳さんの、小指が。紅を塗った私の唇の上をなぞっていく。
 たった、指先一本。
 そこから伝わる熱に、頭が溶けたように何も考えられなくて。
「君に、触れる口実になるでしょ」
 私の唇と同じ色に染まった、孟徳さん小指の先を。
 ただただ見つめることしかできなかった。

三国恋戦記 編集

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