猫の額








『いつかのあなたへ』 #伯巴

伯巴にはまって、一番初めに書いた伯巴でした。バッドエンドのお話です。




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「もう、舞はおやめになられたのですか?」
 至極残念そうな声音に、思わず眉尻が下がる。
 柔らかそうなまっすぐの金の髪が、陽光を受けてきらりと輝く。その瞬間。ほんの少しだけあの人のことを思い出すときが、僅かな繋がりだ。
「やめたわけではないのよ」
 いつものやりとり。やめたも何も、最初からできないのだ。素直に私を慕うこの子には言えなかった。いつだったか、"彼"に教えを請うたことがあるけれど。下手だと笑われ一向に上達せず、より後が辛くなるだけだったので辞めた。
「⋯⋯この戦が終われば、また姉上と舞をと思っているのですが」
 残念そうな声。でもね、あなたと舞ったのは、私ではないのよ。何度も飲み込んだ真実。あれから何度も時を繰り返し、もう中原制覇は
目前だった。
 やっと、ここまできた――。
 小高い丘に吹き込む風は血の匂いを含んでいて、大きく吸い込めば気分が凪いだ。
 "あの人"から引き継いだ悲願を達成する。ただそれだけで走り続けてきた。達成したその先に何があるかはわからない。今までと同じようにまたあの人に出会い、そして失うだけの日々が繰り返されるのかもしれない。
 それでも。それでも、あの人が追い求めていたものを一度でも達成することに意味はあるように思う。
「仲謀」
「はい」
 少しだけ振り返り、後ろに控える彼の目を見据える。まっすぐにこちらを見上げる瞳は、光が差せばあの人と同じ色なのに、全く違う。感情的になりすぎるところはあるけれど、視野は広く周囲の意見をよく聞くことができる。
"伯符"にはない才がある。
「あなたには、土地を守り保つ才覚がある。それをよく覚えておいて」
「――はい」
 "姉"の言葉に、気迫に怖気付きながらも、真剣な瞳で頷くその姿に安堵して笑みが溢れる。この子なら、大丈夫だ。この先私がいなくなったとしても。
「――きっと、きっと上手くいくわ」
 この先に何が待ち受けているのかはわからないけれど。あなたの願いを叶えることだけが、唯一、私にできること。
 伯符さん――。
 あなたに会いたいなんて言わないから、弱かった私を許して。

三国恋戦記 魁 編集

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