猫の額








『色めく欲のまま』 #仲花
夫婦後仲花です。『色っぽいお話書きたい』アンケートで書いたお話なのでそういう感じのです。
大分慣れてきたころの夫婦なので、仲謀が若干あれです。




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「ちょっ、と待って」

 手のひらに吸い付くような柔肌の感触に没頭していたものだから、そこそこ聞き慣れてしまった台詞に眉を顰めることすら煩わしい。なんだよ、と反射のように出た声は想定していたよりも低く、己の余裕のなさにため息をつきたくなった。

「皺になるから……」
「別にいいだ――」
「よくない」

 先程まで顔を赤らめしおらしくしていたというのに、食い気味に反論する声音はいつもの花だった。強めの否定に、肩と裏腿を撫で上げていた手を離し、距離を取る。それを了承と受け取った花が、自身の帯の紐を緩め始めた。
 しゅっ。
 甲高い衣擦れの音がやけに大きく響いたものだから、酒に酔っていた頭が幾分か冴えてくる。
 『待て』と言われることは多々あれど、大抵は夜着で事に及ぶから、花が衣服の皺を気にすることなどあまりない。今日は珍しく酒も飲まないくせに同席した宴から共に戻り、着替える前に寝台になだれこんだところだった。
 思えば、いつもは優先度の高い事項に気を取られながら服を剥ぎ取るばかりで、こうしてゆっくり眺めることなどない。きっと煩わしいとさえ思う衣を止めるいくつかの紐も、花が一つ一つ外していく様は扇情的だった。待つのも悪くない――と思い始めたところで、花が居心地が悪そうに手を止めた。

「あ、あんま見ないで……」

 待て。見るな。本当に注文が多い。
 結局それに従ってしまう己への舌打ちを堪えつつ、目線を転じようとした視線の端。先刻さっき、待てと言われる前に捲り上げていた裾から覗く、花の白い足に目が止まった。

「……わかったよ」

 一度待ったし、脱ぐところを見なければいいのだ。やや乱暴な言い訳だと頭の隅では理解していながら、まだ酔いの残った状態では些細なことでしかない。
 組んでいた腕を解いて寝台に手をつき、花との距離を縮める。そして、今はもう日中は露わになることはない膝小僧に口付けた。

「、な」
「見てないから早くしろよ」

 視線を落とし、そのまま白い肌に唇を滑らせる。これ以上我儘を言ったとしても聞いてはやれない。

三国恋戦記 編集

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