猫の額
#その他
ハートの国のアリスオールキャラ本 『Forget me』WEB再録
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「お嬢さん、君は今日も麗しいな」
「あら、あなたもとても素敵よ?」
「というわけで、だ。こんなに美しいお嬢さんを差し置いて私だけ――というのは私の信条に反する」
「へー、ブラッドにそんなものがあったの。あなたのことですもの、さぞかし立派な信条なんでしょうね」
「……あぁ、そうだ。だからこれを全て君に差し上げよう。いや、遠慮することはない。美しいお嬢さんのために、私はこんなことしかできないのだから」
「いいえ、十分だわ。居候させて貰っている上に、こんな豪華なお茶会まで。忙しいのに付き合わせて申し訳ないわ。あなたの目の前にあるケーキなんて、素晴らしく栄養価が高いし、紅茶だけじゃ倒れてしまうじゃない。――ほら、どうぞ」
「私の9割は紅茶でできているんだ。紅茶さえあれば何もいらない」
爽やかに晴れ渡った昼下がり。今日も帽子屋屋敷ではお茶会が開かれていた。
しかし、天候とは正反対に、卓上の空気はピリピリしていた。その原因は、私達の真ん中に鎮座する『あれ』だ。
「ブラッド、大丈夫? 人間の成分に紅茶は一ミリリットルだってないのよ? とち狂ったことを言いだすなんて、疲れのせいよ。いいわ。私の分もあげる。どうぞ」
「何を言う。客の菓子まで取り上げるわけがなかろう。いい。君が食べなさい。私の分まで」
「はあ? 自分の分は自分できちんと頂くのが最大の礼儀じゃない」
「そういう君だって、食べようとしない」
「あなたが先に言いだしたからでしょ」
「いや、君が――」
「お前ら……」
表面だけの友好さをかなぐり捨てようとした頃、悲しげに揺れる声が割って入った。小さな声だったが、私達を黙らせるには十分だった。
「……食わない、のか?」
「「…………」」
しょーん、と擬音が聞こえてきそうなほど、垂れた耳。図体のでかい男が、全身でがっかりとしたオーラを出したところで――なのだが。帽子屋屋敷のNo.2のエリオットが相手では、従わざるを得ない。……だって、胸が痛むからだ。
「な、何言ってるのよ。もう楽しみで楽しみで。取り合いなんてみっともなかったわね。――ねぇ、ブラッド。ありがとー、エリオット」
「……あぁ、そうだな」
「他の人の分まで手を出しちゃ駄目よね?」
「…………あぁ、そうだな」
目の前には、エリオット特注の巨大オレンジ色のブツ。逃げ場は――ない。先ほど自分で断った。
「俺の分はたーっぷりあるから、いつもみたいに分けてくれなくていいぜ!」
私の言葉に安心したのか、顔だけでなく全身から喜びいっぱいのオーラをあふれ出させるウサギ、ことエリオット。
私とブラッド、それぞれの前にはオレンジ色のケーキ。テーブルの真ん中に鎮座する巨大なオレンジ色のケーキの、何十分の一とはいえ一人分にしてはかなり量が多い。オレンジ色のものは見たくない私達とっては、致死量である。
「平和だね」
「ああ、平和だね、兄弟」
苦い顔をしながら、ケーキを口に運ぶ双子は、たとえ休みを増やされても、今の時間を勤務時間として認められても、まったく嬉しそうではなかった。
「まったく、本当に」
「「馬鹿らしい」」
彼らのハモる声を聞きながら、フォークをさくりとケーキに突き立てる。ごくりと唾を飲み込み、目をつぶって口に『あれ』を放り込んだ。
13 確かに君たちが好きなのだけれども
2024.04.27 21:00:00
ハートの国のアリスシリーズ
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「お嬢さん、君は今日も麗しいな」
「あら、あなたもとても素敵よ?」
「というわけで、だ。こんなに美しいお嬢さんを差し置いて私だけ――というのは私の信条に反する」
「へー、ブラッドにそんなものがあったの。あなたのことですもの、さぞかし立派な信条なんでしょうね」
「……あぁ、そうだ。だからこれを全て君に差し上げよう。いや、遠慮することはない。美しいお嬢さんのために、私はこんなことしかできないのだから」
「いいえ、十分だわ。居候させて貰っている上に、こんな豪華なお茶会まで。忙しいのに付き合わせて申し訳ないわ。あなたの目の前にあるケーキなんて、素晴らしく栄養価が高いし、紅茶だけじゃ倒れてしまうじゃない。――ほら、どうぞ」
「私の9割は紅茶でできているんだ。紅茶さえあれば何もいらない」
爽やかに晴れ渡った昼下がり。今日も帽子屋屋敷ではお茶会が開かれていた。
しかし、天候とは正反対に、卓上の空気はピリピリしていた。その原因は、私達の真ん中に鎮座する『あれ』だ。
「ブラッド、大丈夫? 人間の成分に紅茶は一ミリリットルだってないのよ? とち狂ったことを言いだすなんて、疲れのせいよ。いいわ。私の分もあげる。どうぞ」
「何を言う。客の菓子まで取り上げるわけがなかろう。いい。君が食べなさい。私の分まで」
「はあ? 自分の分は自分できちんと頂くのが最大の礼儀じゃない」
「そういう君だって、食べようとしない」
「あなたが先に言いだしたからでしょ」
「いや、君が――」
「お前ら……」
表面だけの友好さをかなぐり捨てようとした頃、悲しげに揺れる声が割って入った。小さな声だったが、私達を黙らせるには十分だった。
「……食わない、のか?」
「「…………」」
しょーん、と擬音が聞こえてきそうなほど、垂れた耳。図体のでかい男が、全身でがっかりとしたオーラを出したところで――なのだが。帽子屋屋敷のNo.2のエリオットが相手では、従わざるを得ない。……だって、胸が痛むからだ。
「な、何言ってるのよ。もう楽しみで楽しみで。取り合いなんてみっともなかったわね。――ねぇ、ブラッド。ありがとー、エリオット」
「……あぁ、そうだな」
「他の人の分まで手を出しちゃ駄目よね?」
「…………あぁ、そうだな」
目の前には、エリオット特注の巨大オレンジ色のブツ。逃げ場は――ない。先ほど自分で断った。
「俺の分はたーっぷりあるから、いつもみたいに分けてくれなくていいぜ!」
私の言葉に安心したのか、顔だけでなく全身から喜びいっぱいのオーラをあふれ出させるウサギ、ことエリオット。
私とブラッド、それぞれの前にはオレンジ色のケーキ。テーブルの真ん中に鎮座する巨大なオレンジ色のケーキの、何十分の一とはいえ一人分にしてはかなり量が多い。オレンジ色のものは見たくない私達とっては、致死量である。
「平和だね」
「ああ、平和だね、兄弟」
苦い顔をしながら、ケーキを口に運ぶ双子は、たとえ休みを増やされても、今の時間を勤務時間として認められても、まったく嬉しそうではなかった。
「まったく、本当に」
「「馬鹿らしい」」
彼らのハモる声を聞きながら、フォークをさくりとケーキに突き立てる。ごくりと唾を飲み込み、目をつぶって口に『あれ』を放り込んだ。
13 確かに君たちが好きなのだけれども